こんにちは!新卒「国際協力師」の延岡由規(@yuki_nobuoka)です。
カンボジアは、1960年代後半以降に起こったベトナム戦争に巻き込まれ、北ベトナムの重要な補給路であったホーチミン・ルートが通っていたラオスとともに、米軍による爆撃の対象となりました。
ベトナム戦争終結以降も、およそ30年以上に渡る戦闘状態が続き、各派各軍が大量の地雷を使用したことも知られています。
中でも、多くの地雷が埋設され、未だに撤去が完了していない農村地域に住む人々は、道路や水道などのインフラが整備されておらず、都市部に比べると社会経済的な「発展」から取り残されてしまっています。
そんな地域に住む人たちは、現金収入を得るために日雇い労働や、隣国 タイに出稼ぎに行く人が少なくありません。それによる子どもの教育機会への影響については、前回の記事で書きました。
今回は、そんなカンボジア人による出稼ぎについて、それから、現場に来て改めて考えさせられているもやもやについて書いていきます。
妻はバンコクにいる
先日、地雷被害者を含む障害者家族の生計向上支援の一環で、対象者にインタビューをする機会がありました。プロジェクトなのでもちろん、終了時には評価をする必要があります。そのために、最低でもプロジェクト開始時における対象者の生活状況は知っておかなければいけません。
いくつかの家庭を訪問して話を聴いている時、地雷被害を受けたある男性の携帯電話が鳴りました。電話に出て2、3分ほど話した後、彼が言い出したのです。
「今の電話はタイにいる妻からだ」
訊くと、奥さんはタイの首都バンコクに出稼ぎに行っているそうです。
男性はこう続けました。
「今週末にカンボジアに帰ってくるから、パスポートの更新の準備をしてほしいと言われた」
3ヶ月ぶりにカンボジアに帰ってくる奥さんは、パスポートの更新が終われば、またバンコクに戻って働きます。
奥さんだけでなく、13歳の息子さんもタイに出稼ぎに行っているとのことです。
カンボジア人の出稼ぎ
役所での手続きを踏んで、合法的に海外へ出稼ぎに行く人もいれば、不法入国によって就労をする人もいます。そのため、正確な数は分からないのですが、各種メディアによると海外で働いているカンボジア人労働者は、100万人以上です。
2015年時点、カンボジアの労働力人口は861万人(参考:公益財団法人 国際労働財団)ですので、約12%以上が海外に流出していることになります。
また、2012年の世界銀行などの調査によると、カンボジア国外で就労する労働者から国内へ送金された金額が約2億5600万ドルにのぼりました。これは、同年カンボジアのGDPの約1.8%を占めます。
カンボジア人の出稼ぎ先はマレーシアや韓国、中国、日本など近隣諸国が中心となっています。中でも、人気があるのがお隣の国 タイです。
私たちの事業地であるバッタンバン州カムリエン郡は、カンボジアの北西部に位置し、車で15分もあればタイ国境に着くことができる地域です。それもあって、私が接する機会のあるカンボジア人出稼ぎ労働者の多くは、タイに行っているような気がします。
タイでは治安の悪化を懸念してか、2014年頃から不法就労者の取り締まりが厳しくなりました。カンボジアはじめ、ラオスやミャンマー、ベトナムなどの近隣諸国からの出稼ぎ労働者に対しては、パスポートに加えて「ピンクカード」と呼ばれる一時的な労働許可証を取得することで、タイ国内での就労が認められています。
そのピンクカードを取得したカンボジア人は、2016年4月から7月の4ヶ月間だけで30.9万人であったと報告されています。(参考:ミャンマー、カンボジア、ラオスなどのタイ国内労働許可登録者数を発表 | ASEAN JAPAN)
物理的に近くて行きやすいというのもひとつの理由でしょう。それだけでなく、タイの最低賃金の高さも魅力的なのでしょう。
カンボジアでは、労働職業訓練大臣によって2017年の末までに全業界における最低賃金を設定する意向が示されましたが、現状、縫製業・被服業及び製靴業に従事する労働者に対してのみ、月額153ドルという最低賃金が設定されています。(参考:2017年のカンボジア月額最低賃金は153ドル[政治])
また、カンボジアにおける農作業等の日雇い労働で得られる日当は、村人たちから話を聞く限りでは約5ドルといったところです。毎日仕事があったとしても、月に150ドルほど収入が得られたら良い方です。
一方、タイでは今年3月に、1日8.48ドル(月額約254.4ドル)であった最低賃金が、バンコクと都市部6県において、1日8.76ドルに引き上げられました。これは月額にすると約262.8ドルです。(参考:Cambodian workers see Thai salaries rise , National, Phnom Penh Post)
国の「経済発展」の差によって(それだけではありませんが)、最低賃金の金額差がカンボジア人のタイへの出稼ぎを後押ししていることは、想像に難くありません。
押し付け?
話を戻します。
先日インタビューを行なった男性の奥さんは、長期間バンコクで働き、収入をカンボジアにいる家族に送金しています。今回は3ヶ月振りの帰国だそうです。「パスポートの更新」と言っていたのでおそらく「合法的な」出稼ぎ就労者なのでしょう。
そして、彼の話を聴いていて思ったこと。
価値観の押し付けなのでは、という疑問。
というのも、彼の話を聴きながら「家族は一緒に暮らした方が幸せだろう。出稼ぎをしなくても良い環境をつくりたい」と自分は思っていたのです。
しかし、彼はその状況をこう言ったのです。
「とってもシンプルなんだ」
奥さんは奥さんで、バンコクで働く。彼は地雷事故のために片足を失い、家で孫の面倒をみる。そういう役割なんだと。確かに、日本でも単身赴任の家庭は少なくないですし、現に私も親元を離れてカンボジアに来ています。
彼の家族は経済的な理由で、ばらばらで生活せざるを得ない状況です。すでに結婚している娘夫婦や小さな孫も同じ家に住んでいて、家族は一緒に暮らす方が幸せだ、と私は思っていました。
でも、奥さんはバンコクでよりたくさん働いて、よりたくさん収入を得て、それをカンボジアの家族に送金する。もしかしたら、彼らにとってはその方が幸せなのではないでしょうか。
私たちがやろうとしていることは、家庭菜園や家畜の飼育による収入源の多様化で、今日何かやったからといって、明日結果が出るものではありません。ならば、今の生活を維持する方が彼らにとってはベターな選択なのかもしれません。
しかし、長期的に見ると、持続可能な生活を送るためには、やはり今、何かを変えていく必要があります。でもそれはあくまでもこちら側の考えであって、「今」彼らが求めているものとマッチするのでしょうか。彼らの「幸せ」に踏み入ることが許されるのでしょうか。
そんなことを考えていました。
「本当に意味のある支援」とは。
すぐに答えは出ませんが、ひとつ言えることはこの問いに向き合い続けること。言い換えると、思考を停止させないこと、と同時に、手足を動かし続けること。
現場で直接、対象の人や地域と触れ合えるからこそ、この問いに対する答えに近づけるような気がしています。
時間はかかるかもしれません。
答えはないのかもしれません。
しかし、向き合い続けることを止めてはいけないなあと、そんなことを考える今日この頃です。
photo by Yuki Nobuoka